百合子の部屋

若い頃のイケナイコト。



その日は彼氏と喧嘩をして、
寂しさと苛立ちとで悶々とした
眠れない夜を過ごしていた。



人恋しくて、誰かと話がしたいと思い、
電話機の子機をベッドの中に持ち込み
適当な番号に電話をかけてみた。







今思うと随分思い立った行動だけれど、
その時は勢いが余っていたのだろう。



（もし電話口に女性が出たら、
間違えましたと言って電話を切ろう。
もし男性が出て、優しそうな感じの人だったら
話し相手になってくれるかな…）



もちろん、そんなことをしたことは無く
子機を持つ手が震える。



〇〇〇〇－✕‬✕‬－△△△△…



プルルルルルルル……



プルルルルルルル……



掛けてはみたけれど、
怖くて数コールで切ってしまった。



心を落ち着けてもう一度
適当な番号に掛けてみる。



‪✕‬‪✕‬‪✕‬‪✕‬－△△－〇〇〇〇…



プルルルルルルル……



プルルル……  ガチャン



2コールが終わらないうちに相手が出た。



（ど、どうしよう！）



「はい、もしもし…」



「あっ、あのっ…… 夜分にすみません。
え、えと… もし良ければ私と
少しお話してもらえませんか？」
勇気を振り絞って言ってみた。



お相手の男性は多分相当驚いたでしょうけど
「うん、いいよ、少し話す？」
と言ってくれました。



お相手の男性は恐らく20~30代くらい。
まだ高校生の私には、お兄さんな感じがした。



穏やかなその声と喋り方に
安心したのと嬉しかったことで
私は堰を切ったように話し出す。
電話の向こうの見知らぬ彼は、
うんうんと私の話を訊いてくれました。



色々話を聞いてもらって私の心が落ち着いた頃
見知らぬ彼への想いが少し膨らんでいた。



そんな彼に「今度逢えないかな？」と言われた



私の心を見抜かれたようでドキッとした。
半分逢いたい気持ちと
半分逢ってはイケナイ気持ちとで
心が揺れ動く。どうしよう。



「うん、じゃあまた電話するね」と私。
そしてその夜は電話を切った。



しばらくベッドの中で
布団を頭から掛けて篭もり、
この夢のような、現実のような、
フワフワドキドキした心臓を
抑えられない感じに興奮した。



でも……



結局翌夜に電話をすることはなかった。
次の日も、その次の日も…



なんて言うか…
この出来事を現実のものとしないで、
夢のような出来事として
大事に取っておきたかったのかも。



逢えばきっとセックスしてしまい、
せっかくのいい思い出も
そこで終わってしまうかもしれない。
（セックスがいい経験になるとは限らない）



今あの時を思い返すと、
『逢ってセックスしておけばよかった』と
『逢ないでいい思い出として
取っておいてよかった』と、どちらも思う。



まぁ、今なら多分やっちゃうけどね 笑








百合子

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